かなな著
・・・・どれくらい、優斗の腕の中で、涙を流していただろうか。
涙を流しながら、いつの間にか軽く眠りに入ってしまったらしい。
眠るというより、昏睡状態一歩手前まで薄まる意識の中で、何度かのチャイムの音を聞いたような気がした。
そして、時間をかけて、徐々に意識がはっきりしてゆくにつれて、体にも力が戻ってゆく。
まさに瞳が開く・・というのがぴったりの表現で、目を覚ました芽生に映った室内は、西日に照らされていた。
「気がついた?」
声をかけてくる優斗の瞳が、これ以上ないくらいに柔らかだ。
体勢は、先ほどとまったく変わっていない。ソファの上で、優斗に抱きしめられている状態だ。
放課後特有の、生徒達のクラブ活動の様々な音が、ここまで聞こえてきていた。夕暮れ時特有の、けだるい空気が流れていて・・・。
「・・・ずっと、抱きしめていてくれていたの?」
雅の除霊をしたのは午前中だ。昼時をまたいで芽生は、彼に抱きとめられていた事になる。
ハッとなって、慌てて彼の腕から飛びのいた芽生に、優斗が一言。
「さすがに5時間以上、同じ体勢は疲れたよ。」
と言ってくるものだがら、
「ごめんね・・。」
と謝る芽生に、彼は首を横に振る。
「かまわないよ。これくらい。」
と言った彼の雰囲気は・・・。
消え入りそうに、儚げだった。
今回の事は、さすがの彼も、ショックな出来事だったのだ。
「体の調子はどんな感じ?」
と聞いてくるので芽生はニッコリほほ笑んだ。
「休憩できたから、だいぶマシみたいだよ。」
彼の前で立ち上がって見せてみると、見て分かるくらいに、ホッとする顔をする。
「出ようか。」
と言った優斗の言葉に芽生がうないた。
二人は手をつないで、引き戸に手をかけようとした瞬間。
いきなりガラガラ・・と開くのである。
開いた先に、人が立っていた。
(!)
芽生達の姿を認めて、仰天した顔をしている。
孝徳の制服を着た、上背のある彼は・・・。
「翔太・・・。」
呻くようにささやいた芽生の声が、絶望的な響きに聞こえたのは、なぜだろう。
北川翔太が、扉の向こうに立っていたのだ。